大判例

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最高裁判所第三小法廷 昭和33(オ)143 判決

主 文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理 由

上告代理人光石士郎、同篠原千広の上告理由第一点一について。

原審は、挙示の証拠により被上告人B1が本件土地上に所有していた家屋を昭和

二五年四月頃失火によつて焼失したので、同年七月十三日に同被上告人宅で上告人

に本件土地上に自己または第三者名義で家屋を新築することの了解を求め、上告人

からその旨の許諾を得て、建築届に地主としての土地使用の承諾書(甲第七号証)

に本件土地の所有名義人であるD名義で捺印を受けるとともに、本件地上に同被上

告人または第三者名義で建築することを異議なく承諾する旨の書面(乙第一号の一、

二)を、後の第三者が建築する場合をも考えて二通の交付を受けたとの事実を認定

したうえ、上告人が右のような許諾を与えたことは、特別の事情についてなんらの

主張立証のない本件では、上告人が被上告人B1に対し本件土地の賃借権を第三者

に譲渡するについてあらかじめ承諾を与えたものと解するのを相当とする旨判断し

たのである。

所論は原審の右解釈を非難するが、そもそも被上告人B1が上告人の印章を偽造

して本件家屋新築申告書(甲第八号証)を作成提出したことは原審の認定しないと

ころであり、一方、甲第五号証には所論別事件における被上告人B1およびその代

理人の所論引用のような陳述記載が存在するが、右陳述は被上告人B1において特

定の第三者が本件土地上に家屋を建築するについて上告人から許諾を得たことはな

いとの趣旨にすぎないことは原審が認定したところであり、所論は、その前提を欠

いた非難に過ぎず失当であることを免れない。また、原審が乙第一号証の一、二を

採つて事実認定の資料としたことは違法であると主張するが、単に原審の専権に属

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する証拠の取捨判断を非難するにすぎない。次に、上告人の主張する名義書換料ま

たは権利金を收受した事実については原審が認定しなかつたところであるが、それ

だからといつて、上告人が本件土地の賃借権の譲渡を承諾したと解することができ

ないものではない。また、賃貸人が賃借権の譲渡を承諾するにあたり譲受人を特定

しないで誰にでも賃借権を譲渡できるものとすることはなんら実験則に反するもの

ではない。論旨はいづれも理由がない。

同第一点二について。

所論承諾書(乙第一号証の一、二)の文理のみをみれば、上告人は被上告人B1

が自己または第三者の名義をもつて自ら家屋を建築することを許諾したにすぎない

と解する余地がなくはない。しかし、原審の確定したところによれば、上告人は被

上告人B1または第三者が本件土地上に家屋を新築することを許諾する趣旨で右承

諾書を交付したというのである。このように第三者の家屋新築をも許諾することは、

特別の事情があつて別異に解すべき場合は格別そうでない以上は、第三者をして当

該家屋を本件土地上に保有せしめることを許諾することにほかならず、これを土地

利用の側面から観察して第三者に対する土地賃借権の譲渡または転貸を承諾したも

のと解することは十分に是認できる。原審の判断は正当である。

同第二点一について。

原判決が本件土地の賃借権の譲渡につき上告人の承諾があつたと解するにあたり、

特別の事情について主張立証がないと付言したのは、経験則による法律行為の解釈

にあたり看過すべからざる反対事情の有無につき周到に顧慮した結果を表明したも

のにほかならず、決して、該反対事情の立証責任を上告人に課した趣旨でもなけれ

ば、また民法六一二条の規定に対する所論のような解釈を適用したものでもない。

所論は原判決を正解しないでこれを非難するにすぎない。所論引用の判例はもとよ

り所論を支持するに足りない。

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同第二点二について。

所論は「本件に於て証拠上明瞭にされているところは上告人は被上告人B1以外

の第三者に本件土地を賃貸する意思を持つたことはないという事である」と主張す

るが、これは原審の認定に全然副わない事実である。このような事実を前提として

原判決を非難する所論は、失当である。

同第二点三について。

記録によれば、本件において、第一審は上告人が本件土地の賃借権譲渡に対して

承諾を与えた事実は認められないが、上告人が無断譲渡を理由に賃貸借契約を解除

し、本件土地の明渡を請求するのは、これを「正当ならしめる特段の事由」がない

以上認容できないとして、右請求を排斥したのである。これに対して、原審は、本

件土地の賃借権の譲渡に対して上告人の承諾があつたものと解し、上告人の右請求

を排斥したものである。したがつて、たとえ、上告人が第一審判決のいわゆる「特

段の事由」として被上告人B1が本件家屋の新築申告書を偽造したと主張し、その

立証のため原審にいたり前出甲第八号証を偽造文書と称して提出したという事情が

あつたとしても、原審としては、上告人の前記請求の当否を決定するうえにおいて、

甲第八号証が偽造文書であるか否かを審究するまでもなかつたことが明らかである。

よつて、右新証拠に対する判断遺脱を非難するのは当らない。所論引要の判例は本

件に適切でない。

同第二点四について。

原判決の引用する第一審判決の理由によれば、上告人の賃料不払を理由とする特

約に基づく解除の主張に対しては、被上告人B1は適法に本件土地の賃借権を被上

告人B2・ビルディング株式会社に譲渡し、もはや本件土地賃貸借契約に基づく賃

料債務を負担しないものであるから、被上告人B1の賃料不払を理由とする解除は

その効力を生じないと判断しているのであつて、解除の意思表示が、被上告人B1

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に到達しなかつたから解除の効力は生じないといつているのではない。所論は原判

決を正解しないでこれを非難するものであり、失当である。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のと

おり判決する。

最高裁判所第三小法廷

裁判長裁判官 五 鬼 上 堅 磐

裁判官 河 村 又 介

裁判官 垂 水 克 己

裁判官 高 橋 潔

裁判官 石 坂 修 一

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